【書評】三宅秀道「新しい市場のつくりかた」
「新しい市場のつくりかた」を読んだ。
イノベーションを起こすような開発の構造を日本における開発例を中心として解き明かした本。
新規市場を切り開くには問題を発見するのではなく開発するということ。
ここでの問題というのは既に存在してるものではないため
ユーザインタビューなどからあぶりだすことはできない。
ではどうすれば問題を開発できるのか。
それは文化を開発すること。
ウォシュレットや水泳帽などがその例で、
今まで存在しなかった生活習慣を生み出した結果受け入れられるようになった。
文化を確立できた場合は、
キーボードのQWERTY配列に見られるようにそれが最適な解でなくとも、
習慣による優位性が強力に働く。
では文化を開発するとはどういうことか。
それは「しあわせ」の形をイメージしその新しい方向に働きかけること。
ただこの「しあわせ」は今既に存在している概念でもないし、
人によって形の違うものであるため多くの人にとって簡単に具体化できるものではない。
この本で紹介されているいくつかの商品開発の例に取り上げられている方々の共通点は、
常にアンテナを張っていて多くの”多様な”人を観察していること。
パスルチェアの開発の例で面白かった考察は、
観察の対象として「弱さ」を持つ人たちの感性が役に立つという視点。
障害がある方達のために行った椅子の調節データを元になり快適な椅子の要素発見につながった。
「弱さ」を持つ人は一般的にその弱さを否定されがちだが、
その弱さゆえに起きる反応が今まで気づけなかった改善のきっかけになる。
本の中には、
古い歴史の織田信長の茶器の例(文化的に価値があるもの)や
EaglesのDesperadoの歌詞などからの考察(自分が知覚していないことの制限)や
華麗なるギャツビーの映画の引用(ラグジュアリーに対する成金)などあり、
著者の興味の範囲が広いことに感心した。
今必要なのは、
深く理解する要素を絞って複数持つことと、
全体を広く観察する視野の広さのかと感じた。